「万舟だけ狙う」を機械的にやったら、いくら残るか
YouTubeで競艇を検索すると、「万舟だけ買い続けた結果」「1号艇が弱いレースだけ買ってみた」という動画がよく出てくる。荒れそうなレースを見分けて、大きい配当だけを狙う。もっともらしく聞こえる。
このツールでは、レース前に得られる情報だけで「荒れそう」を機械的に判定し、実際に「万舟を狙う買い方」で13万7,914レース・2年8か月ぶん買い続けたら回収率(舟券に投じた金額に対して、払い戻された金額の割合。100%で収支トントン、それ未満は損失)がどうなるかを測った。結論から言うと、一番『荒れそう』と判定した上位2割に絞っても、回収率は62.6%だった。 100%を割っている=赤字である。
結論: 一番荒れそうな2割に絞っても、回収率は62.6%
対象は自前DBの137,914レース(2024年1月1日〜2026年9月3日、2年8か月・6艇完走かつ3連単払戻ありのレース)。モデル(機械学習)は一切使っていない。番組表だけで作れる素朴なルールを、機械的に最後まで貫いた場合の結果である。
「万舟」は3連単配当が1万円以上と定義した。「荒れそうなレース」を選ぶシグナルは、edge = 1号艇の全国勝率 − 2〜6号艇の全国勝率の平均。edgeが小さい(0や負に近い)ほど1号艇が抜けておらず、荒れそうというレース前の見立てになる。全国勝率は番組表(Bファイル)由来で締切よりずっと前に確定しているので、「結果を見てから選ぶ」後知恵にはならない。
このedgeで全レースを5等分(Q1=最も荒れそうな2割 → Q5=1号艇が圧倒的に強い2割)し、「万舟を狙う買い方」として3連単の1号艇消しボックス(2〜6号艇で1〜3着を並べる60通り、1レース6,000円。1号艇が3着以内に入らなければ的中)を機械的に買い続けた場合の回収率を出した。

万舟率はQ1(20.1%)からQ5(12.6%)まで、狙いどおり単調に下がる。シグナルは機能している。

一番良いQ1でも62.6%。全体平均は52.7%。5分位すべてが100%を割っている。
シグナルは正しい方向に効いている。万舟率も回収率も、Q1からQ5へきれいに下がっていく。それでも一番良いQ1で62.6%であり、損益分岐(100%)にはほど遠い。「見分け方」自体は間違っていないのに、それだけでは勝敗の分かれ目にならない。
後半で扱う内容
- なぜ『荒れそう』を当てても儲からないのか(単勝1号艇固定と比べると分かる、市場の先回り)
- 期間を半分に割っても崩れないか(前半・後半で同じ順序が保たれるかの頑健性チェック)
- 2年8か月、機械的に続けたら実際にいくら残るか(月次の資金推移・黒字だった月の数)
- 確定オッズが使える短い期間だけで見るとどうなるか(副次チェックと、その限界)
- 『1号艇消しボックス』という買い方自体の弱点(万舟の半分はこの買い方では取れない)
潰した論点も、潰せていない論点も、そのまま書く。
なぜ『荒れそう』を当てても儲からないのか
「荒れそうなレースを見分けられているなら、そこだけ買えば得なのでは」と思うかもしれない。比較のため、このシリーズの定番である「単勝 1号艇固定」(1号艇の単勝を機械的に100円買う)を、同じedge5分位で見てみる。

1号艇の1着率はQ1(32.9%)からQ5(73.3%)まで大きく動くのに、単勝の回収率は89〜93%でほぼ横ばい。
1号艇の1着率はQ1とQ5で2倍以上違う。だが単勝の回収率はどちらもほぼ90%台で変わらない。理由は単純で、オッズがすでに「このレースは1号艇が弱い」を織り込んでいるからである。1号艇が弱そうなレースでは1号艇のオッズが高くなり(1回当たれば大きく戻る)、1号艇が強そうなレースではオッズが低くなる(当たりやすいが戻りは小さい)。均せば同じような回収率に収束する。
1号艇消しボックスの回収率がQ1で高くQ5で低いのも、実はこの裏返しにすぎない。「1号艇が弱そうなレースほど1号艇以外が来やすい」という当たり前の事実を、買い方を変えて言い直しているだけで、市場に対する優位性を新しく作り出しているわけではない。だから回収率は改善しても、100%という壁は越えない。
期間を半分に割っても崩れないか
1回の集計がたまたま良く見えているだけではないか、という疑いは常に持つべきである。137,914レースを日付順に前半・後半へ2等分し、同じedge5分位を作り直した。

前半(2024-01-01〜2025-05-05)・後半(2025-05-06〜2026-09-03)のどちらも、Q1が最も高くQ5が最も低いという順序が保たれている。
Q1の回収率は前半61.2%・後半63.1%で、ほぼ同じ水準を保っている。「荒れそうな2割ほど回収率が高い」という関係自体は、期間を変えても崩れない再現性のある傾向だった。 ただし、その水準は常に62〜63%どまりで、100%に近づく気配は無い。
2年8か月、機械的に続けたら実際にいくら残るか
ここまでは回収率(%)の話だった。ここからは実額で見る。全国の該当レース全部に、100円単位で機械的に賭け続けた場合の集計であり、1人の資金繰りの実例ではないが、規模感をつかむための数字として出す。

四半期末時点の累積回収率。Q1(荒れそうな2割のみ)・全レース(参考)のどちらも、33か月を通じて一度も100%に届いていない。

Q1のみに絞っても、投じた1億6,552万8,000円に対して払い戻しは1億360万950円。差し引き6,192万7,050円のマイナス。
33か月のうち、月次の回収率が100%を超えた月は1回も無かった。 Q1の月次回収率が一番高かったのは2025年5月の76.9%、一番低かったのは2025年3月の50.6%。上下のブレはあるが、黒字化した月そのものが存在しない。1万円を賭け続けたら6,259円が返ってくる、という比率がほぼ一定で続く。
確定オッズが使える短い期間だけで見ると
ここまでのedgeは番組表の全国勝率だけで作った代理シグナルであり、本物のオッズではない。もし実際のオッズを使えたら、もっと精度良く「荒れそう」を判定できるはずである。このツールは3連単の確定オッズ(race_odds3t)も収集しているが、2026年1月15日〜7月20日の4,602レース分しか無い(同期間の全レースの16%)。2年8か月の全期間では使えないため、ここでは参考として、この短い期間だけで市場のオッズと突き合わせる。

横軸は市場の本命オッズ(そのレースの3連単120通りの中で一番低いオッズ)。オッズが高い=市場自身も本命が絞れていないレースほど、万舟率が上がる。
この短い期間・4,352レースで、edgeと市場の本命オッズの順位相関を取ると-0.612。方向は一致している(edgeが小さいレースほど市場も自信が無い)。ただし同じレース集合で万舟率の差を比べると、edge5分位の差は19.6%→12.7%の6.9ポイントなのに対し、市場の本命オッズ5分位の差は12.3%→22.0%の9.7ポイントとより大きい。 番組表だけの代理シグナルは、本物のオッズが持つ情報の一部しか拾えていない。
この副次チェックは期間が短く、box戦略の回収率をこのオッズで測り直したものでもない。本編の「62.6%が上限」という結論を置き換える材料ではなく、あくまで参考である。
『1号艇消しボックス』という買い方自体の弱点
最後に、この記事で使った買い方そのものの限界を書く。「1号艇が3着以内に入らなければ的中する」という設計は、直感的には「1号艇が飛べば万舟になりやすい」という発想に基づいている。だが実際に数えると、この直感は半分しか正しくない。
万舟(配当1万円以上)22,827件のうち、51.6%は1号艇が実は3着以内に入っている。 1号艇が1着で2〜3着が大荒れになるケースなど、1号艇が絡んだままでも万舟は普通に出る。1号艇消しボックスは、この半分を最初から取りこぼす設計になっている。
さらに、このボックスが的中したレース全体(25,080件)の平均配当は17,458円・中央値8,300円で、万舟でない当たりも多く含まれる。そのうち実際に万舟だったのは44.0%にすぎない。そして、ボックスが取りこぼした万舟(1号艇が3着以内でも成立した万舟)の平均配当は23,852円で、ボックスが拾えた万舟の平均配当より高い。 「1号艇を消せば万舟に近づく」という発想は、狙いとしては半分正しく、半分外れている。
測り方の詳細数え方と対象の決め方。読まなくても本文の結論は変わりません
- 母集団は6艇完走かつ3連単払戻があるレース(137,914件、2024-01-01〜2026-09-03)。モデル(LightGBM)は使わず、
race_entry.natl_win_rate(全国勝率)だけで作った機械的なルール。 - この母集団の絞り込み(6艇完走・払戻あり)自体はレース後にしか分からない条件で、欠場・失格が絡むレースはあらかじめ対象外にしている。レース前に「このレースは完走するか」までは分からない点に注意。
- edgeの5分位は結果を見てから閾値を選んだものではない(等分位による機械的な区切り)。
- 「1号艇消しボックス」以外の万舟狙いの買い方(2〜3着流し、人気上位を消すだけ等)は未検証。box戦略1種類の結果であることに注意。
- 前半・後半の頑健性チェックは日付でレース数を等分した2区分。
- 確定オッズ(
race_odds3t)による副次チェックは2026-01-15〜2026-07-20の4,602レース(同期間の16%)のみが対象で、本編の結論とは別の集計である。 - 「単勝1号艇固定」の全体値(1着率55.34%・回収率91.61%、137,847レース)は、
docs/03_findings.mdに載せた検証の数値(1着率54.8%・回収率91〜92%、29,791レース)とは母集団が異なる(本記事は検証期間に絞らない全期間)。近い値だが同一ではなく、混同しないこと。
では、荒れそうなレースを見分けること自体は無駄なのか
見分けること自体はできていた。万舟率も、1号艇の1着率も、edgeという単純な指標だけで大きく動く。これは前半・後半どちらでも再現した、偶然ではない関係である。
それでも儲けにはつながらなかった。理由は、その「見分けやすさ」がオッズにすでに反映されているからだった。1号艇が弱そうなレースでは1号艇のオッズが上がり、その他の艇のオッズは相対的に下がる。荒れそうだと分かるレースほど、荒れたときの配当そのものが目減りする。見分けることと、儲けることの間には、市場という壁がもう一段ある。
この連載でこれまで見てきた「モデルは市場と互角(52%対48%)」「会場を絞っても100%に届かない」という結論と、今回もつながった。番組表の情報だけで作れる指標は、ほとんどの場合すでにオッズに織り込まれている。
免責
- 本記事に記載した数値はすべて過去データに対する実測であり、将来の的中や利益を保証するものではありません。
- 本記事および言及したツールは分析の補助を目的としており、舟券の購入を勧誘するものではありません。
- 舟券は20歳未満の方は購入できません。
- 舟券の購入は自己責任で、生活に必要な資金とは別の、余裕資金の範囲で行ってください。のめり込みには十分ご注意ください。
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