期待値(EV)で選べば勝てるのか、2つの独立窓で決着をつけた

オッズと回収率 公開

結論から書く。破れていない。 単勝の期待値(EV。ここでは「モデルが出した客観勝率×単勝オッズ」の意味。1.0を超えれば理論上は割に合う賭けになる)が高い艇だけを選ぶ手法は、実際に賭けられるオッズの下では市場を超えなかった。2026年9月15日09:30、この検証専用の自動ジョブが最終判定を出して自己停止した。以後、この窓の数字はもう動かない。

このシリーズは自前DB(2024-01-01〜2026-09-16・152,484レース)で、公開データと機械学習だけで競艇の舟券収支をプラスにできるかを実測している。今のところの到達点は3連単上位6点が回収率78.4%、単勝本命1点が91〜92%で、どちらも100%(収支トントン)には届いていない。今回の期待値選別は、この壁を初めて越えたように見えた手法だった。その顛末を書く。


三度、100%を超えて見えた

2026年7月、単一の窓(2026-07-01〜07-20・3,026レース)でEV≧1.00の艇だけを選んで単勝を買うと、検証期間で回収率124.6%(bets 4,256・的中16.4%)が出た。100%を超えたのはこのシリーズで初めてだった。

その場では信じず、次の検算をかけた。

  • ブロックbootstrap(時系列の並びを保ったままリサンプリングして信頼区間を出す手法)95%信頼区間 [107.8%, 143.0%]
  • 前半・後半に分けても(SELECT/HOLDOUT)どちらも100%超
  • モデルの較正比0.90〜1.05(大きく歪んでいない)
  • 中穴帯(オッズ3〜10倍)だけに絞っても115%
  • 同じ手法を3連単に適用すると67%(このシリーズ既知の負けを再現しており、コードのバグではないことの傍証)

それでも「確定した」とは判断しなかった。理由は3つ。(1)単一窓しかない(9月に入るまでオッズの記録を始めていなかった)。(2)選別に締切後の確定オッズを使っていた(賭け時に見えるのは締切前の暫定オッズで、これは先読みだった)。(3)資金配分の理論値(Kelly基準。推定した勝率とオッズから、資金の何%を賭けるのが最適かを出す公式)を慎重寄りの0.25倍にしても、賭け額が発散した(推定した優位性が実在しない徴候)。

9月に入ってオッズの記録を始め、独立した2つの週(W36: 2026-09-01〜09-06・782レース、W37: 2026-09-07〜09-13・965レース)で同じ検証をやり直した。学習はどちらも検証開始日より前で打ち切っている。

確定オッズで選び直すと、3つの独立窓すべてで100%を超える

単一窓の幸運ではなかった。 3つの独立した窓すべてで、確定オッズによる選別は100%を超えた。上の(1)の疑いはここで晴れる。しかし(2)がまだ残っている。この124.6%〜107.6%は、締切後にしか分からない確定オッズを使った先読みの参考値であり、実際に賭けるときには再現しない上限値である。


なぜ先読みだと分かったか

確定オッズは締切後に確定する、実際の払戻の元になる数値。暫定オッズは締切前に表示されている、刻々と変わる仮の数値で、賭けるときに見えるのはこちらだけである。

同じ窓・同じモデルで、選別に使うオッズを確定→暫定に入れ替えるだけで数字がどう動くかを見た。

実際に賭けられる暫定オッズで選ぶと、2窓とも100%を割る

確定オッズから暫定オッズに替えただけで、W36は105.6%→69.6%、W37は107.6%→66.4%まで落ちた。95%信頼区間はW36が[58%,82%]、W37が[57%,77%]で、幅は広いが両窓ともほぼ全域が100%を下回っている。

この落差はモデルの精度不足では説明できない。W36で予測確率と実際の的中率を照合すると、平均p_win 19.46%に対し実際の的中率は17.76%で、差は+1.69ポイントしかない。40ポイント近い落差を、2ポイント弱の予測誤差で説明することはできない。原因はモデルの中ではなく、選び方そのものにあった。


正体は「勝者の呪い」

勝者の呪い(winner's curse)とは、オークションや入札のように「一番条件が良く見えるものを選ぶ」という行為自体が、選ばれた対象の評価を一時的に押し上げてしまう現象を指す。EV(客観勝率×オッズ)による選別も同じ構造を持っていた。

EV≧1.00という条件は、「その時点でオッズが高く表示されている艇」を選び出す。しかしオッズが高いのは、その艇が弱いからとは限らない。まだ投票が入りきっていないだけ、つまりこれから下がる途中の艇であることが多い。選ぶという行為そのものが、下がる直前の艇を引き当ててしまう。

EVで選んだ艇だけ、締切にかけて評価が半分近くまで落ちる

全艇で見た確定オッズ÷暫定オッズの中央値は、W36・W37とも1.000。全体としては歪んでおらず、上がる艇と下がる艇はほぼ半々である。ところがEVで選別した艇だけを取り出すと、中央値はW36で0.403、W37で0.452まで落ちる。W36は92.5%、W37は90.8%の艇が実際に下落していた。選ぶという操作そのものが、下がる艇を集めていた。

「締切に近づけて取れば直るのでは」という素朴な対策も試した。締切までの残り時間で群を分けても(5〜7分・8〜10分・11〜14分)、回収率は75.6%/54.7%/75.1%と単調に改善しなかった(W36の実測)。5〜15分手前の範囲では「まだ投票が入りきっていない」という点で大差がなく、直前の大口投票は原理上どうやっても見えない。


独立2窓で同じ機序が再現した、これで終わりにする

残っていた疑いは2つだった。単一窓の幸運ではないか、そして先読みを外しても勝てないか。W36・W37という独立な2つの窓で確かめた結果は次のとおり。

W36・W37 完全窓、最終判定の数字

  • 単一窓の幸運という疑いは晴れた。確定オッズによる選別は3つの独立窓すべてで100%を超えた。
  • しかし先読みを外す(実際に賭けられる暫定オッズにする)と、2つの独立窓とも100%を割った。
  • 「まだ投票が入りきっていない艇を選んでしまう」という機序(勝者の呪い)は、W36・W37の両方で同じ形(確定/暫定比0.40〜0.45)で再現した。

正直に書くと、この結論に至るまでに一度、判断を誤りかけている。W37がまだ閉じていなかった9月9日時点では、部分窓(276レース・363点)の確定オッズ選別が82.0%と100%を割っており、「結論はさらに『破れていない』側に寄る」と書いた。しかしこれは363点というサンプル不足によるノイズで、W37が閉じたあとの完全窓(965レース・1,310点)では107.6%に戻った。この記述は撤回する。部分窓の数字を最終判断に使わないという教訓が、ここから残った。

2026年9月15日09:30、独立2窓での最終検証を実行した自動ジョブ(EvReverify)が確定判定「偽陽性寄り(市場の壁)」を出し、自己を無効化した。これ以降、この窓の数字は誰が測り直しても動かない。

このシリーズはずっと同じ壁にぶつかっている。公開データと機械学習だけでは、市場(オッズ)が織り込んでいる情報を超えられない。期待値による選別は、その壁を初めて越えたように見えた唯一の手法だったが、実際に賭けられる条件では越えていなかった。目に見えていた優位性は、賭ける前にしか見えない数字が作った幻だった。


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