「同支部なら譲り合う」を13万レースで検証したら、正体は相手の弱さだった
競艇の予想界隈でたまに聞く話がある。「1号艇と同じ支部の選手が他の艇にいると、無理に競り合わずに譲る」というものだ。支部とは選手が所属する地域区分(競艇学校の出身地とは別に、選手登録上の地元)のことで、同じ支部の選手同士には仲間意識があるとされる。この"暗黙の了解"が本当にあるなら、1号艇の隣に同支部の選手がいるレースは、1号艇がいつもより勝ちやすいはずだ。
自前のDB(2024-01-01〜2026-09-13・6艇とも完走した139,362レース)で数えてみた。結論から言うと、単純に比べると+1.09ポイントの差が出る。しかし相手の強さを揃えて比べ直すと、その差はプラスとマイナスの間を行ったり来たりして消える。 支部の暗黙の了解を裏付ける数字にはならなかった。
結論: 単純比較では+1.09pt、相手の実力を揃えると消える
1号艇と同じ支部の選手が2〜6号艇のどこかにいるレースを「支部あり」、いないレースを「支部なし」として、1号艇の1着率を比べた。

支部ありは56.02%、支部なしは54.93%。差は+1.09ポイント。数字だけ見れば「同支部の選手がいると1号艇は勝ちやすい」ように見える。
ただし、この記事の主題はこの先にある。この+1.09ptには裏がある。
なぜ「支部あり」の群だけ勝率が高く見えるのか: 相手がそもそも弱かった
1号艇の勝ちやすさは、1号艇自身の力だけで決まらない。2〜6号艇の相手が強いか弱いかにも左右される。そこで、支部あり・なしの両群で「相手5艇の平均全国勝率(その選手の全レースを通じた1着率の目安。数字が高いほど強い選手)」を比べた。

支部ありの群は相手の平均全国勝率が5.133、支部なしの群は5.197。支部ありの群の方が、相手がわずかに弱い。
これは交絡(見た目の差が、比較した2群の間にある別の要因の違いによって生まれている状態)にあたる。支部ありの群でたまたま相手が弱いレースが多く混ざっていたなら、1号艇の勝率が高く出るのは支部の暗黙の了解のおかげではなく、単に相手が弱かったからかもしれない。この時点では、まだ「暗黙の了解が無い」とは言い切れない。相手の強さを揃えた上で、なお差が残るかを見る必要がある。
相手の実力を揃えると、差の向きがバラつく
相手5艇の平均全国勝率で5つの帯に分け、帯ごとに支部あり・なしの1号艇1着率を比べ直した(層別と呼ぶ。交絡変数の値がそろった集団同士で比較し、交絡の影響を取り除く手法)。

相手が弱い帯(4.5未満)ではむしろ支部ありの方が0.63ポイント低く、次の帯(4.5-5.0)では差はほぼゼロ。相手がやや強い2帯(5.0-5.5・5.5-6.0)では逆に2ポイントほど高いが、相手がさらに強い帯(6.0以上)では差は1.07ポイントに縮む。
内訳をすべて出す。

5つの帯の差は-0.63pt〜+2.11ptの範囲に散らばり、符号も反転する。 しかも「相手が弱い→強い」という並びに対して単調に増えるでも減るでもない。もし本当に支部の暗黙の了解が効いているなら、相手の強さを揃えたどの帯でも同じ向き・同じくらいの大きさの差が出るはずである。実際には、相手が最も弱い帯(4.5未満)では-0.63pt、次の帯(4.5-5.0)では差がぴったりゼロ(+0.00pt)、真ん中の2帯(5.0-5.5・5.5-6.0)では+2pt前後、相手が最も強い帯(6.0以上)では+1.07ptと、帯によってばらばらの動きをしている。これは「支部があるとこれだけ得する」と言い切れる形ではない。
docs記事の過去値との違いについて
このツールの検証記録(docs/03_findings.md)には、以前の実測で次の数字が載っている。
| 過去の実測(母集団約2.7〜3万レース) | 今回(139,362レース・2024-01-01〜2026-09-13) | |
|---|---|---|
| 単純比較 | 54.10%→54.91%(+0.81pt) | 54.93%→56.02%(+1.09pt) |
| 層別後の差の範囲 | +1.88pt〜-0.13pt | +2.11pt〜-0.63pt |
| 相手5艇の平均全国勝率の差 | 5.130 対 5.194 | 5.133 対 5.197 |
数値そのものは以前と一致しない。母集団のレース数が増え、対象期間もずれているので、これは想定内のことだ(検証記録にも「データを追加取り込みするたび再計算される」と明記している)。大事なのは数値の一致ではなく、結論の形が同じかどうかである。単純比較では常にプラスの差が出ること、支部ありの群は一貫して相手が弱いこと(交絡の大きさもほぼ同じ)、層別すると効果がプラスとマイナスの間で散らばり一貫した方向がないこと。この3点は、対象レース数がおよそ5倍に増えても変わらなかった。
測り方の詳細数え方と対象の決め方。読まなくても本文の結論は変わりません
- 母集団は6艇とも完走したレースのみ(
race_result.rankが'01'〜'06'で揃うレース)。失格・欠場を含むレースは除外した。全レースのうち約92.9%がこれに当たる。 - 「支部」は
race_entry.branch列(選手の所属支部)。1号艇の支部と、2〜6号艇いずれかの支部が一致するかで群を分けた。 - 交絡変数は「2〜6号艇の
natl_win_rate(全国勝率)の単純平均」。層別の帯は4.5未満/4.5-5.0/5.0-5.5/5.5-6.0/6.0以上の5本。 - 集計対象は2024-01-01〜2026-09-13(DBに入っている最古日〜指定終端)、139,362レース。
- 一次データ・計算ログは
articles/_work/b5_calc.md(使用SQLと生の集計値をすべて残している)。
では何を見ればいいのか
「同支部だから譲り合う」という話を見かけたら、次を確認するとよい。
- 単純な勝率比較だけで語っていないか。相手の強さなど、比較する2群の間で他に違う点がないか。
- 差が出たとして、その差を相手の強さで揃え直しても残るか。今回は相手の実力を揃えた途端、差の符号自体が入れ替わった。
- その効果は同じ条件で繰り返し出るか。今回、5つの帯のうち一貫した方向を示したのは0本だった。
今回の実測では、支部の暗黙の了解を裏付ける形の差は見つからなかった。単純比較で見えた+1.09ptは、その多くが「支部ありの群はたまたま相手が弱い」という交絡で説明でき、残った部分も帯によって符号が変わる不安定なものだった。
免責
- 本記事に記載した数値はすべて過去データに対する実測であり、将来の的中や利益を保証するものではありません。
- 本記事および言及したツールは分析の補助を目的としており、舟券の購入を勧誘するものではありません。
- 舟券は20歳未満の方は購入できません。
- 舟券の購入は自己責任で、生活に必要な資金とは別の、余裕資金の範囲で行ってください。のめり込みには十分ご注意ください。
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