前づけが入ると、1号艇の勝率は57.2%→11.8%まで落ちる
競艇のYouTube解説では「強烈前付け」という言葉がよく出てくる。スタート前、選手には元々の枠番(出走表に書かれている1〜6の番号)が割り当てられているが、実際にコースへ進入するときにその位置を守るとは限らない。外の枠の選手が内側へ強引に割り込み、本来1号艇(枠番1)が入るはずの一番内側の進入コースを奪ってしまうことがある。これが「前づけ」で、動画では実行する選手の名前つきで紹介されることが多い。
このツールの自前DB(2024年1月〜2026年9月・6艇完走のレースに絞って139,619レース)で、1号艇が実際に前づけされたレースを抜き出し、そのレースで1号艇に何が起きるかを数えた。結論から言うと、前づけが無いレースでの1号艇の1着率は57.2%だが、1号艇自身が前づけされると11.8%まで落ちる。単勝(1着になる艇を100円で当てる券種)の回収率も92.7%から28.4%まで崩れる。
結論: 1号艇が前づけされると、勝率は5分の1、回収率は3分の1以下になる
「前づけ」の定義を先に決めておく。race_resultテーブルには、選手の元の枠番(lane)と、実際にスタート時に入った進入コース(start_course)の両方が記録されている。この2つが一致しないことを「前づけ」と呼ぶ。この記事では、レース単位で3つのグループに分けた。
- 前づけなし: レース内の6艇全員が、枠番どおりのコースに進入した(枠なり進入)
- 他艇のみ前づけ: 誰かは前づけしたが、1号艇自身はコース1を守り切った
- 1号艇が前づけされた: 1号艇自身が、本来のコース1を明け渡した
対象は2024-01-01〜2026-09-12の139,619レース(6艇完走かつ進入コースが1〜6の順列で確認できるレースに統一)。このうち「1号艇が前づけされた」レースは1,402件(全体の1.00%)しかない。1号艇はもともと一番内側の枠を持っているため、そこを崩されること自体が稀である。

前づけなし57.2%(n=113,121) → 他艇のみ前づけ49.4%(n=25,096) → 1号艇が前づけされた11.8%(n=1,402)。
1号艇の単勝を機械的に100円買い続けた場合の回収率(舟券に投じた金額に対して払い戻された金額の割合。100%で収支トントン、それ未満は損失)も、同じ順番で崩れる。

前づけなし92.7% → 他艇のみ前づけ89.7% → 1号艇が前づけされた28.4%。前づけが無くても100%には届いていない。
前づけなしと他艇のみ前づけの差(7.7ポイント)だけでも、「レースのどこかで前づけが起きた」という事実が1号艇の勝率を下げることを示している。だが1号艇自身が前づけされた場合の落ち込み(他艇のみ前づけとの差37.7ポイント)は、その比ではない。
前づけされた1号艇は、たいていコース2止まりで済む
「前づけされた」といっても、どこまで押し出されるかには幅がある。1,402件の内訳を、実際に走った進入コース別に見た。

コース2 84.2%(1,181件)・コース3 9.3%(130件)・コース4 2.3%(32件)・コース5 1.8%(25件)・コース6 2.4%(34件)。
前づけされた1号艇の8割強は、1つ外のコース2に下がるだけで済んでいる。コース4より外まで追いやられるのは合計91件(6.5%)にとどまる。「前づけ」と聞くと大きく弾き出されるイメージがあるかもしれないが、実際には軽微な押し出しが大半である。
誰がコース1を奪うのか: 2号艇が過半数、遠い枠からの"強襲"も一定数ある
コース1を奪った側の艇が、元はどの枠番だったかも数えた。

コース1を奪う艇は2号艇が55.4%と過半数を占め、3・4・5・6号艇と枠が遠くなるほど件数は減っていく(3号艇15.7%→6号艇8.5%)。ただし遠い枠からの前づけが無いわけではなく、5〜6号艇からの前づけも合計17.9%(251件)ある。「強烈前付け」として動画で取り上げられるのは、主にこの5〜6号艇からのケースだと考えられる。
表の「その艇の単勝回収率」は165〜202%という高い数字になっているが、この数字を見て「前づけしてきた艇を買えばいい」と考えるのは早計である。理由は3つある。
- これはレース結果が確定した後のデータであり、レース前に「この艇が前づけしてコース1を奪う」と分かっていた前提の数字ではない。進入コースが固まるのは締切直前で、理論上は知る余地があるとしても、本ツールはその直前情報をリアルタイムで収集する仕組みを実装していない。
- 5号艇・6号艇の回収率(202%・167%)は、それぞれ132件・119件という少ない件数の払戻に支えられている。件数が少ないほど、平均は極端な高配当1件で大きく動く。
- この数字はあくまで「前づけとはどういう現象か」を見せるための参考情報であり、この記事の主結論(1号艇が前づけされると勝率・回収率が崩れる)とは別に扱っている。
期間を3つに割っても、崩壊の幅は変わらなかった
「1号艇が前づけされた」という現象は1,402件しかなく、たまたま特定の時期に偏っていないかを確認しておく。レース数で日付順に3等分し、期間ごとに同じ集計をした。

| 期間 | 1号艇が前づけされた(n) | 1着率 | 通常レース(n) | 1着率 |
|---|---|---|---|---|
| 期1(2024-01〜) | 423 | 12.06% | 46,116 | 55.69% |
| 期2 | 442 | 11.99% | 46,098 | 55.33% |
| 期3(〜2026-09-12) | 537 | 11.36% | 46,003 | 56.25% |
どの期間でも、前づけされた1号艇の1着率は11.4〜12.1%のレンジに収まり、通常レースとの差は44ポイント前後で安定している。1つの期間だけを切り取った数字ではない。
3グループの数字をまとめて見る
ここまでの数字を1つの表に並べておく。

前づけなし(113,121件)は1着率57.16%・回収率92.70%。他艇のみ前づけ(25,096件)は1着率49.43%・回収率89.74%。1号艇が前づけされた(1,402件)は1着率11.77%・回収率28.44%まで落ちる。
測り方の詳細数え方と対象の決め方。読まなくても本文の結論は変わりません
- 対象は自前DB全体、2024-01-01〜2026-09-12の139,619レース(執筆日2026-09-13の前日まで。それ以降は結果が未確定のため対象外)。6艇完走(
race_result.rankが失格・欠場コードを含まず'01'〜'06'の6行が揃う)かつ、進入コース(start_course)が1〜6の順列で6艇そろっているレースに統一した。 - 「前づけ」は
race_result.lane(元の枠番)とrace_result.start_course(実際の進入コース)が一致しないことと定義した。レース単位では「1号艇が前づけされた」(1号艇自身のstart_course≠1)・「他艇のみ前づけ」(1号艇以外の艇に不一致がある)・「前づけなし」(全艇一致)の3グループに分けた。艇単位(全レース×6艇のうち不一致の割合)で見た前づけ率は9.09%で、既刊の以前の記事(1号艇の強さ)で使ったlane_strength.jsonの前づけ率9.10%とほぼ一致している。 - 単勝回収率は、
race_payout(単勝の払戻データ)を使い、1号艇の単勝に100円を賭け続けたと仮定して算出した。今回の母集団139,619件は全件に単勝払戻データがあり、除外は発生していない。 - 「誰がコース1を奪ったか」の節にある単勝回収率は、前づけしてきた艇の元の枠番に対応する単勝払戻を使って計算した(進入コース番号ではなく枠番で払戻データと結合する必要がある)。
では何を見ればいいのか
「強烈前付け」の動画を見て、次のレースで「この艇はよく前づけするから買い」「1号艇が危ないから消し」と考える人もいるだろう。今回の実測で分かったのは次の3点である。
- 1号艇自身が前づけされる現象は稀(全体の1.00%)だが、起きると勝率・回収率がどちらも大きく崩れる。 前づけなしの1着率57.2%に対し、前づけされると11.8%まで落ちる。
- 前づけされても、たいていはコース2止まりで済む。 8割強がコース2どまりで、コース4より外まで追いやられるのは全体の6.5%にとどまる。
- 「前づけしてきた艇の回収率が高い」という数字は、レース前に知っていた前提の数字ではない。 本ツールは進入コースが固まる直前情報をリアルタイムで収集しておらず、この記事の数字は結果が確定した後の事後集計である。「前づけを見たら買う/消す」という判断を、締切前に安定して下せるかどうかは今回の検証の範囲外であり、確認できていない。
この記事自体も、前づけが無いレース(全体の81%)ですら、1号艇の単勝回収率は92.7%で100%に届いていない。 前づけという現象を知ったところで、赤字という前提そのものは変わらない。
免責
- 本記事に記載した数値はすべて過去データに対する実測であり、将来の的中や利益を保証するものではありません。
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