優勝戦の1号艇は、勝率は上がるのに回収率は下がる
「準優勝戦・優勝戦のインは堅い」という話をよく見る。節(4〜7日間の開催)の最終日、上位に勝ち残った選手だけで走る優勝戦・準優勝戦は、実力が拮抗していて1号艇がそのまま押し切りやすい、という理屈である。
このツールの自前DB(2024年1月〜2026年9月・15万レース)で、開催区分ごとに1号艇の成績を数えてみた。結論から言うと、1着率は確かに大きく上がる。予選48.3%に対し、優勝戦は70.0%、準優勝戦は73.4%。 ここまでは通説どおりである。ところが単勝(1着の艇を100円で当てる券種)の回収率は逆で、優勝戦が4区分の中で最も低い85.9%だった。 一番堅く見える区分が、一番損をする区分になっている。
結論: 1着率は上がる。でも回収率は下がる
対象は自前DB全体、2024-01-01〜2026-09-02の150,336レース。raceテーブルのtitle(レース名)を使って、開催区分を4つに分けた。
- 予選 … 節の序盤、勝ち上がりをかけた予選ラウンド
- 一般 … トーナメント構造を持たない一般戦
- 準優勝戦 … 節の最終日前、優勝戦への進出をかけたレース
- 優勝戦 … 節の最終日、その開催の順位を決めるレース
titleは固定長フィールドで、長い開催名(記念競走のニックネームなど)は途中で切れているため、単純な部分一致では誤検出する。文字列をNFKC正規化した上で「準優勝戦」を先に判定してから「優勝戦」を判定する、という順序でこの4区分に振り分けた(判定方法の詳細は後半)。titleでこの4区分に振り分けられたのは111,660レース(全体の74.3%)で、残り約26%(38,676レース)はSG/G1などの記念競走特有のニックネーム(サンライズ、ドリーム戦など)で、今回は対象外にした。このうち、着順が6艇とも完走で確認できる102,479レースを1着率・連対率の集計に、単勝の払戻データがある110,074レースを回収率の集計に使った。

1号艇(内側のコースを走る艇)の1着率は、予選48.3% → 一般55.3% → 準優勝戦73.4% → 優勝戦70.0%と、節の終盤に進むほど上がっていく。2着以内に入る割合(連対率)も同じ形になる。

ここまでは「優勝戦のインは堅い」という通説を裏付ける結果である。件数は予選64,859・優勝戦2,096で、1着率の差は48.3%→70.0%の21.7ポイント。優勝戦側の件数だけで見ても2,096レースあり、母比率の差としては誤差で埋まる大きさではない。
問題はこの先である。同じ1号艇を単勝(1着になる艇を100円で当てる券種)で機械的に買い続けた場合の回収率(舟券に投じた金額に対して払い戻された金額の割合。100%で収支トントン、それ未満は損失)を見ると、話が変わる。

1着率が一番高かった優勝戦(70.0%)の回収率が85.9%と、4区分の中で最も低い。逆に1着率が一番低かった予選(48.3%)は回収率89.6%で、優勝戦より高い。「勝ちやすい」ことと「賭けて儲かる」ことは別物である。 優勝戦の1号艇は、勝ちやすい分だけオッズが下がっていて、その下がり方が勝率の上がり方を上回っている。
4区分の数字を、良いものも悪いものも含めてすべて並べておく。

どの区分の回収率も100%に届いていない。「優勝戦のインを買えば手堅い」という発想そのものが、回収率という基準では成立しない。
なぜ1着率が上がるのか: 級別構成の変化
優勝戦・準優勝戦は、その節で勝ち上がった選手だけが走るレースである。選手にはA1・A2・B1・B2という4段階の級別があり、A1が最上位にあたる。上位進出者だけのレースなら、当然A1級の選手が多く座ることになる。1号艇に座る選手の級別構成を、区分別(予選・一般=early / 準優勝戦・優勝戦=final)に数えた。
| 級別 | 予選・一般(early)での比率 | 優勝戦・準優勝戦(final)での比率 |
|---|---|---|
| A1 | 22.9% | 75.4% |
| A2 | 23.3% | 18.7% |
| B1 | 50.8% | 5.3% |
| B2 | 3.1% | 0.6% |
予選・一般では1号艇の半分がB1級だが、優勝戦・準優勝戦になると4分の3がA1級に入れ替わる。1着率が上がる理由の少なくとも一部は、これで説明がつく。強い選手が1号艇に座る確率が上がっただけ、という見方である。
級別をそろえても、差は残る
では「級別の入れ替わりだけ」で全部説明できるのか。それを確かめるには、同じ級別同士で比べる必要がある。A1級の選手が1号艇に座ったときの1着率を、early(予選・一般)とfinal(優勝戦・準優勝戦)で比較した。

同じA1級同士でも、finalの1号艇の方が1着率が6.3ポイント高い(68.8%→75.1%)。A1のfinal側は件数も5,872件と十分にある。級別の構成変化だけでは説明しきれない差が残っている。
B1・B2の差(+18.5pt、+31.6pt)はもっと大きく見えるが、final側の件数がB1で410件・B2で45件しかなく、参考値にとどめる。上位に勝ち残ったB1・B2選手はそもそも通常のB1・B2より強い可能性もあり、この差をそのまま「級別内の効果」と読むのは危うい。
この残った差の原因は、今回は特定できていない。一つ思いつく仮説として「1号艇が実際にコース1を走っているか(前づけされていないか)」を確認したが、予選・一般で98.8%、優勝戦・準優勝戦で99.3%とほぼ同じで、これは説明にならなかった。級別構成の変化で大半は説明できるが、全部ではない。残りの理由は分からないまま、正直に「未確認」と書く。
測り方の詳細数え方と対象の決め方。読まなくても本文の結論は変わりません
- 対象は自前DB全体(2024-01-01〜2026-09-02、150,336レース)。モデルの学習/検証で使うような期間分割はしていない(これは記述統計であり、モデルのバックテストではないため)。
- 1着率・連対率は、
race_resultの6艇すべてで着順(rank)が1〜6の数値になる(=失格・欠場のない完走レース)ものだけを対象にした。138,184レースが該当し、そのうち今回の4区分に入ったのは102,479レース。 - 単勝回収率は、
race_payout(単勝の払戻データ)が存在するレースだけを対象にした。100円を1号艇の単勝に賭け続けたと仮定し、払戻合計÷(100円×レース数)で算出した。データが無いレースを0円扱いにはしていない(回収率が不当に下がるため)。 titleの分類方法:unicodedata.normalize("NFKC", title)で全角/半角を正規化した上で、「準優勝戦」を含むものを先に判定し、次に(準を含まず)「優勝戦」を含むものを判定、それ以外で「予選」「一般」で始まるものを予選/一般とした。「準優勝戦」は文字列として「優勝戦」を含む(準+優勝戦)ため、判定の順序を間違えると全部「優勝戦」に混入する。- 級別の交絡チェックは
race_entry.racer_class(A1/A2/B1/B2)を使い、1号艇の選手の級別で層別した。
では何を見ればいいのか
「優勝戦・準優勝戦のインは堅い」という通説は、1着率で見る限り正しかった。予選の48.3%から優勝戦の70.0%まで、はっきりと上がる。これは今回の検証で一番はっきりした事実である。
ただし、「堅い」と「儲かる」は別の指標である。 同じ1号艇を単勝で買い続けたときの回収率は、優勝戦が4区分中もっとも低い85.9%だった。勝ちやすさの分だけ、オッズがそれ以上に下がっている。
もし「優勝戦・準優勝戦のインは堅いから買い」という話を見かけたら、次を確認するとよい。
- その「堅さ」は1着率の話か、回収率の話か。今回の実測では両者が逆方向に動いた。
- 100%という基準に対して、どれだけ余裕があるか。今回もっとも1着率が高かった優勝戦でさえ、回収率は85.9%だった。
- 1着率が上がる理由が「選手構成の変化」で説明できるものか、それ以外の要因が残っているか。今回は級別をそろえても6.3ポイントの差が残り、原因は特定できていない。
この記事自体も、4区分すべてで回収率は100%を割っている。 優勝戦のインを買っても、その前提は変わらない。
免責
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