1号艇が負ける条件を、139,041レースで分解する
以前の記事「1号艇はどれくらい強いのか」では、6艇が完走したレースだけを対象に、1号艇(スタート時に一番内側のコースを取る艇)の1着率が55.31%だと示した。2レースに1回以上は1着になる、という数字だ。
ただしこれは全体をひとまとめにした平均でしかない。1号艇が勝ちやすいレースもあれば、勝ちにくいレースもある。今回はその中身を、級別(1号艇自身の強さ)・会場・風速という3つの軸で分解した。どれが1着率の差を一番動かすのか、組み合わせるとどこまで動くのかを実測する。
結論: 差が最も大きいのは級別、次に会場、風はいちばん小さい
対象は2024年1月1日〜2026年9月8日の139,041レース(失格・欠場を含まず6艇が完走したレースのみ)。1号艇の1着率が、各要因の中で最も高い区分と最も低い区分でどれだけ差が付くかを比べた。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)
- 級別(1号艇自身の強さ): 37.0ポイント差(A1の71.3% 〜 B2の34.3%)
- 会場: 19.8ポイント差(徳山の62.8% 〜 戸田の43.1%)
- 風速: 10.2ポイント差(無風〜1mの58.5% 〜 6m以上の48.3%)
3つを組み合わせると、差はさらに開く。A1級の1号艇×穏やかな風なら73.98%、B1級の1号艇×強風なら34.98%。同じ「1号艇」という条件だけでは、この39ポイントの差は説明できない。
「1号艇は堅い」という一言でくくれる範囲は、思ったより狭い。
1. 級別: 1号艇自身が弱ければ、当然1着率も下がる
級別とは、選手の実力を4段階(A1・A2・B1・B2、A1が最上位)でランク付けしたものだ。まず1号艇自身の級別だけで1着率を並べる。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)
A1の1号艇は71.3%、B2の1号艇は34.3%。同じ1号艇でも、級別だけで1着率は倍以上違う。 ここまでは「強い選手が1着になりやすい」という当たり前の話に見える。
ただし、もう一段掘り下げると当たり前では済まない事実が出てくる。1号艇の級別が下がるレースでは、そのレースの相手5艇も一緒に弱くなるとは限らない。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)
「1号艇の全国勝率」から「相手5艇の平均全国勝率」を引いた差を見ると、A1・A2の1号艇はプラス(周りより強い)だが、B1・B2の1号艇はマイナス(周りより弱い)になっている。つまりB1・B2の1号艇は、単に「1号艇として弱い」だけでなく、「そのレースの中でも相対的に弱い側」に回っていることが多い。1号艇の級別による1着率の差37.0ポイントは、この2つの効果が重なった結果である可能性が高い。なぜこの構造になるのか(レース編成の仕組み由来かどうか)は今回のデータからは確認できていない。事実として観測されたことだけを書く。
2. 会場: 差はあるが、期間を分けても崩れない
24会場それぞれで1号艇の1着率を集計した。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)
最も1号艇が勝ちやすいのは徳山(62.8%)、最も勝ちにくいのは戸田(43.1%)。差は19.8ポイントで、級別ほどではないが会場によるまとまった差がある。
ここで気になるのは「この差は本物か、たまたまか」である。以前の記事(会場ランキングの罠)では、3連単・単勝の回収率で会場ランキングを作ると、期間を3つに分けただけで上位がほぼ総入れ替えになり、3期間連続で残った会場は0だったと書いた。今回も同じ確認をしてみる。
139,041レースをレース数で前半・後半に2等分し、それぞれで24会場のランキングを作り直した。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)
前半・後半の会場別1着率の相関係数(2つの並び順がどれだけ似ているかを-1〜1で表す指標。1に近いほど同じ並び)は0.94。トップ5のうち下関・大村・徳山・芦屋の4会場は前半・後半どちらにも入った。
回収率ランキングは崩れ、1号艇の1着率ランキングは崩れない。 この違いは矛盾ではない。1号艇の1着率は会場の水面・進入コースの決まりやすさという構造的な性質を映した数字で、水面のクセが数か月で大きく変わることは無いので安定する。一方、回収率は「その構造 × オッズの付き方 × その期間の結果」という、もう1段階かけ算された数字になる。オッズは大勢の賭け手の分析結果を集めたものなので、会場の性質があらかじめ織り込まれていれば、構造が安定していても優位性は消える。「1号艇が堅い会場」を言い当てることと、「その会場を買えば儲かる」ことは、別の話である。(この理屈は荒れる場・堅い場の記事と同じ。今回は指標が1号艇1着率という別のものだったが、結論の形は変わらなかった。)
3. 風速: 方向は一貫しているが、影響は3要因の中で一番小さい
race_conditionテーブルの風速(m単位)を4つの帯に分けて集計した。風向きは会場ごとに堤防の向きが違うため「追い風・向かい風」への変換ができておらず、今回は風速のみを扱う。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)
無風〜1mでは58.5%、6m以上では48.3%。風が強いほど1号艇の1着率は下がる。差は10.2ポイントで、級別(37.0pt)・会場(19.8pt)と比べると一番小さい。
この傾向が級別によって変わらないかも確認した。件数の多いA1・B1の2級別に絞って、風速帯ごとの1着率を並べる。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ・A1・B1のみ)
A1(73.98%→63.46%、-10.5pt)もB1(41.58%→34.98%、-6.6pt)も、風が強くなるほど1着率が下がる方向は同じだった。級別が違っても、風の効き方が逆転するようなことはない。
4. 組み合わせると、1号艇は74%にも35%にもなる
最後に、影響が一番大きい「級別」と、方向が一貫していた「風速」を掛け合わせる。

出典: 自前DB 139,041レース(2024-01-01〜2026-09-08・6艇完走のみ)
- A1 かつ 風0-1m: 73.98%
- A1 かつ 風6m以上: 63.46%
- B1 かつ 風0-1m: 41.58%
- B1 かつ 風6m以上: 34.98%
条件をそろえるだけで、1号艇の1着率は74%から35%まで動く。「1号艇だから堅い」という一言は、条件次第で大きく外れる。 逆に言えば、級別と風速という手元で確認できる情報だけでも、1号艇の強さの見え方はかなり変わる。
測り方の詳細数え方と対象の決め方。読まなくても本文の結論は変わりません
- 母集団:
race_result.rankが失格・欠場コード(F/S0/S1/S2/K0/K1等)を含まず、6艇すべてが'01'〜'06'の数値として完走したレース。2024-01-01〜2026-09-08で139,041レース。集計の終端は2026-09-08に固定した(それより後のレースは記事執筆時点でまだ結果が出そろっていないため対象外)。 race_result.rankはTEXT型で'01'のような文字列。整数としてrank = 1のように比較すると1件も一致しない(このプロジェクトで過去に実際に踏んだ罠)。- 級別・風速・会場の3軸は独立に集計しており、3つを同時に使った重回帰のような分析はしていない。「組み合わせ」の節(4.)で示したのは級別×風速の単純なクロス集計であり、両者を同時に調整した効果ではない。
- 風速データの欠損は0件(139,041レース全件で取得済み)。風向は今回使っていない(上述の理由)。
- B2級の1号艇はn=3,246と他の級別より少ない。風速帯でさらに割ると1セルが数百件規模になり不安定になるため、風速×級別の確認はA1・B1の2級別に限定した。
- 本記事の「1号艇の1着率55.31%」は、以前の記事「1号艇はどれくらい強いのか」が同じ母集団定義(6艇完走)で出した数字(対象137,791レース)とほぼ一致する。一方で
docs/03_findings.md記載の55.47%や、track_record.json由来の54.8%は、期間・払戻の有無などの条件が違う別の母集団の数字であり、本記事の数字とは単純比較できない(1つの記事の中では母集団を統一しているので、記事内の数字同士は矛盾なく比較できる)。
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