1200m戦は別競技か。5,710レースで確かめた
競艇は基本的に3周1800mで走る。だが番組表を見ていると、まれに「1200m」というレースが混ざっている。2周しか走らない、短いレースである。SNSや動画では「1200m戦は荒れる」「別物だと思って買い方を変えている」という声を見かける。本当に別物なのか、手元のデータで数えた。
結論から言うと、部分的にそうだった。 1200m戦は、1号艇の1着率が6.1ポイント低く、決まり手の中身も「逃げ」から「まくり・差し」へ寄っている。理由もはっきりしている。1200m戦は、平均風速が1800m戦の2.5倍という荒天のときに起きていた。 ルールが別なのではなく、同じ競走が荒天モードで走っている、というのが実態に近い。
集計期間は2024-01-01〜2026-09-27、対象は154,260レース(このうち1200m戦は5,710レース、全体の3.7%)。
結論: 別ルールではなく、荒天モード
まず、1200m戦と1800m戦の違いを一覧にする。良い数字も悪い数字もすべて並べる。

2024-01-01〜2026-09-27の154,260レース(うち1200m戦5,710)。指標ごとに分母は異なる。詳細は「測り方」を参照。
1号艇の1着率は48.7%と、1800m戦の54.8%より6.1ポイント低い。3連単の配当は中央値で410円高く、1番人気の的中率は1.7ポイント低い。失格・欠場の割合も1.9%と、1800m戦(1.4%)より高い。どの数字も「荒れる」方向に一致していた。
一方で、選手や艇そのものが違うわけではない。同じ選手・同じ級別のレースが、条件次第で1200mに切り替わる。別のルールで走る別競技ではなく、同じ競走が荒天という別条件の下で走っている、というのがこの記事の立場である。
なぜ荒れるのか: 平均風速は2.5倍
1200m戦と1800m戦を、レース条件(風速・波高)で比べた。
| 指標 | 1200m戦 | 1800m戦 |
|---|---|---|
| 平均風速 | 6.7m/s | 2.7m/s |
| 平均波高 | 7.8cm | 2.4cm |
| 風速6m/s以上の割合 | 77.0% | 5.6% |
1200m戦は、平均風速が1800m戦の2.5倍、平均波高は3.3倍ある。風速6m/s以上のレースに限ると、1200m戦では77.0%を占めるのに対し、1800m戦ではわずか5.6%しかない。
web上の解説記事によれば、競艇には風や波で水面が荒れたとき、安定板を付けて周回を3周1800mから2周1200mへ短縮する措置があるとされる(出典)。今回の実測(風速・波高が1200m戦で明確に高い)は、この説明と方向が一致する。ただし本記事では競走会の公式規定そのものを確認していないので、「荒天時の安全対策として短縮される」という説明は、web上の情報と実測の傾向が一致した、というところまでにとどめる。
季節でも同じ傾向が出る。1200m戦の割合は1月が7.1%と最も高く、7月は1.0%と最も低い。日本の冬は季節風が強まる時期で、この季節差も風速の説明と整合する。

2024-01-01〜2026-09-27の154,260レース。月別の1200m戦の割合。
1日の中でも傾向がある。レース番号(1R〜12R)別に1200m戦の割合を見ると、1Rの2.1%から12Rの5.1%まで、後ろのレースほどきれいに増えている。

2024-01-01〜2026-09-27の154,260レース。レース番号別の1200m戦の割合。
朝から昼にかけて風が強まり、開催の途中から短縮に切り替わる、という流れなら説明できる形だが、この記事では「なぜ後ろのレースほど多いか」の直接の理由までは確認していない。傾向として記録するにとどめる。
24会場のどこでも起きるが、頻度はまったく違う
1200m戦は24会場すべてで発生していた。ただし頻度は会場ごとに大きく異なる。

2024-01-01〜2026-09-27の154,260レース。会場別の1200m戦の割合。
最も割合が高いのは江戸川で14.7%(6,168レース中909)、最も低いのは住之江で0.17%(6,420レース中11)。86倍の差がある。 上位の江戸川・桐生・若松・三国・津・鳴門は、水面の立地(河川・沼・海沿いなど)も内陸の高地(桐生)もさまざまで、共通する単一の理由はこの記事のデータからは特定できない。逆に住之江・徳山はほとんど発生していない。会場ごとの水面の性質(風の抜け方・波の立ちやすさ)を扱うのは、また別の検証が要る。
この偏りがあるため、1200m戦を「全会場に均等に起きる現象」として扱うのは誤りである。 特定の会場・特定の季節・開催の後半に集中して起きる。
決まり手: 「逃げ」が減り、まくり・差しが増える
決まり手(1着艇がどう抜け出したか)の内訳も違う。

2024-01-01〜2026-09-27の154,260レース(うち1200m戦5,710)。決まり手が記録されているレースのみ。
1800m戦では「逃げ」(1号艇がそのまま先頭を守る決まり手)が52.7%を占めるのに対し、1200m戦では45.9%まで下がる。代わりに「差し」(+2.5pt)・「まくり」(+2.3pt)・「抜き」(+1.6pt)が増えている。内側の艇がそのまま逃げ切る形が減り、外側からの攻めが決まりやすくなっている。 1号艇の1着率が下がっていることと、向きが一致する。
買い方を変えると何が起きるか
ここまでは「何が起きているか」の話だった。最後に、実際に舟券を買ったときの回収率を見る。
対象は、モデルの検証期間(検証、2026-03-11〜2026-09-27・30,885レース。このうち1200m戦は760レース、1800m戦は30,125レース)。買い方は連載でずっと使っている「単勝 本命1点」(モデルが最も有力とみた1艇の単勝を100円)と、「単勝 1号艇固定」(枠を1号艇に固定して機械的に単勝を買う)を比べた。

検証(2026-03-11〜2026-09-27・30,885レース中1200m戦760・1800m戦30,125)の単勝回収率。100%が損益分岐。
1800m戦では、本命1点(90.7%)と1号艇固定(90.0%)の差はほとんどない(+0.7ポイント)。ところが1200m戦では、本命1点が92.3%、1号艇固定が84.0%と、8.3ポイントの差が開く。 ブートストラップ(データを復元抽出して幅を測る方法)で95%区間を出すと、1200m戦の差は「+2.6〜+14.1ポイント」でゼロをまたがない。1800m戦の差は「-0.1〜+1.6ポイント」でゼロをまたいでおり、こちらは差があるとは言い切れない。
理由は単純で、モデルは風速・波高を特徴量として使っており、1200m戦(=荒天)では1号艇を本命に選ぶ割合が86.8%まで下がる(1800m戦は91.8%)。「機械的に1号艇を買う」という単純な戦略は、1200m戦で特に弱くなる。 モデルが条件に応じて本命を動かすぶんだけ、差が開いている。
ただし、1200m戦の本命1点(92.3%)も1800m戦の本命1点(90.7%)も、どちらも100%には届いていない。 「1200m戦は本命1点が有利」ではなく「1200m戦では、1号艇に固執しない方がまだマシ」という程度の話であり、利益が出るという意味ではない。
3連単で見ると、逆に1200m戦の方が分が悪い。上位1点の回収率は1200m戦71.1%・1800m戦80.2%(-9.0pt)、上位6点は1200m戦76.7%・1800m戦78.9%(-2.2pt)。荒れる分、3連単のような的中の精度を要求する買い方は不利になる。

出典: 検証(2026-03-11〜2026-09-27・30,885レースで分割)。1200m戦はn=760と少ない。
1200m戦のn=760は、この連載の中でも小さい部類のサンプルである。 別の期間(2024-01-01〜2026-09-27の全期間、モデルを使わない単純集計)で「1号艇固定」の回収率だけを測り直すと、1200m戦83.6%(n=4,914)・1800m戦90.6%(n=147,283)で、差は-7.0ポイントだった。検証の-6.1ポイントと近い向き・近い大きさであり、母集団の取り方を変えても崩れない。
測り方
- 期間と対象: 2024-01-01〜2026-09-27。
raceテーブルのdistance_m列が1200または1800のレース、計154,260件(1200m戦5,710・1800m戦148,550)。 - 1号艇の1着率・連対率: 分母は、レース内で1着が決定した(
race_result.rank='01'が存在する)レース。失格・欠場の艇は1着・2着以内に数えないが、分母には含む。 - 決まり手・配当・失格欠場率:
race_condition(決まり手)、race_payout(3連単・単勝の払戻)、race_result(失格・欠場コード)をそれぞれ突き合わせた。失格・欠場はrankがF(フライング)・S0〜S2(出遅れ等)・K0/K1(欠場)のいずれか。フライングはstart_timingの負値ではなくrank='F'で判定した(start_timingに負値は存在しない)。 - 回収率(モデルの本命1点・1号艇固定):
src/article/track_record.pyと同じ手法。日付でレースを並べ、直近20%を検証区間(2026-03-11〜2026-09-27・30,885レース)にし、それより前の期間だけで学習し直したモデルで検証区間を評価した。ここでいう「本命」は、モデルが1着確率を最も高く出した艇。特徴量には枠番・級別・勝率・モーター/ボート2連率・展示タイム・風速・波高などを使っている(距離そのものは特徴量に入れていない)。 - ブートストラップ: レース単位で復元抽出を2,000回繰り返し、「本命1点の回収率−1号艇固定の回収率」の分布から95%区間(2.5〜97.5パーセンタイル)を出した。
- 全期間の1号艇固定ROI(83.6%/90.6%): モデルを使わない単純集計。
race_payoutの単勝払戻を、1号艇が勝ったレースだけ合算し、全レース数で割った。 - 数字はすべて自前のDB(
data/processed/kyotei.sqlite)から数え直した。過去記事の数字は流用していない。
この記事で言えないこと
- 因果は言えない。 風速・波高が高い日に1200m戦が多いことは実測したが、「荒天だから短縮された」という運用ルールそのものは、この記事では公式資料を確認していない。web上の解説記事と実測の傾向が一致した、という段階にとどまる。
- 1200m戦のサンプルは小さい。 検証のn=760は、この連載の中でも小さい部類にあたる。ブートストラップ区間はゼロをまたいでいないが、区間の幅自体は広い(+2.6〜+14.1pt)。
- 「後ろのレースほど1200mになりやすい」理由は未確認。 傾向は明確だが、開催途中で切り替わるのか、別の要因かは調べていない。
- 買い方の提案ではない。 1200m戦・1800m戦のどちらでも、この記事の回収率はすべて100%を下回っている。「1200m戦では本命1点の方がマシ」は、勝てるという意味ではない。
では、1200m戦は別競技か
- 数字の上では、別物に近い挙動をしている。 1号艇の1着率は6.1ポイント低く、決まり手の構成も変わり、配当は高く、1番人気は当たりにくい。
- ただし、ルールや選手が変わるわけではない。 起きている場所(24会場すべて)・時期(冬に集中)・時間帯(開催後半に集中)から見て、荒天という条件が、同じ競走を短縮・別モードで走らせている、という説明の方が実態に近い。
- 1号艇に機械的に賭ける戦略は、1200m戦で特に弱くなる。 風速・波高を考慮するモデルとの差が、1800m戦よりはっきり開いた。それでもどちらの戦略も100%には届いていない。
「1200m戦は別物だから買い方を変える」という話を見かけたら、それが単なる印象なのか、風速・波高のような具体的な条件と結びついているのかを、確かめる価値がある。
免責
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