会場ランキングは、選んだ瞬間に化ける
競艇の予想系サイトや動画でよく見る話がある。「この会場は荒れにくいから買い」「あの会場は回収率が高い、狙い目」というものだ。実際、24ある競艇場ごとに回収率を集計すれば、必ず一番成績の良い会場と一番悪い会場が出る。差もそれなりに大きく見える。
検証用のデータ(その期間より前のデータだけで学習させたモデルで答え合わせした実測)で、24会場すべての回収率を出し、さらに期間を3つに割って測り直した。結論から言うと、良く見える会場は期間を変えると別の会場に入れ替わる。しかも、どの会場を選んでも回収率は100%に届かない。
結論: 24会場のどれを選んでも、回収率は100%に届かない
対象は検証期間の29,815レース(2026年2月19日〜2026年9月1日)。買い方は連載でずっと使っている2つ、単勝 本命1点(モデルが最も有力とみた1艇の単勝を100円買う)と3連単 上位6点(モデルの参考順位の上位6組を各100円買う)にした。
回収率(舟券に投じた金額に対して、払い戻された金額の割合。100%で収支トントン、それ未満は損失)で見ると、全体では単勝本命1点が90.5%、3連単上位6点が78.7%だった。3連単は既刊の本編で書いた78.4%とほぼ同じだが、単勝の90.5%は、既刊で示した「91〜92%」を下回っている。理由は後半の測り方の節に書くが、先に結論だけ言えば、検証に使う期間がデータベースの増加とともにずれるためで、この連載の数字は測り直すたびにこの程度は動く。動いた事実を消さずに書く。
24会場それぞれで同じ集計をすると、当然ながら成績にばらつきが出る。3連単上位6点の回収率が一番高かったのは下関の86.0%だった。

一番良く見える下関でも86.0%。単勝本命1点で見ても下関は98.3%で、これが24会場中もっとも100%に近い数字だが、それでも届いていない。
24会場から一番良いものを選んでも、100%を超える会場は1つもない。 良く見える会場を選ぶという発想そのものが、勝敗の分かれ目にならない。
会場ランキングは、期間を区切ると入れ替わる
ここからが本題である。上の「下関が一番良い」という結果は、29,815レース全部をひとまとめにして出した数字だった。同じデータを、レース数で3等分した3つの期間に分けて、それぞれで会場ランキングを作り直してみる。

上位3会場が、期間ごとにほぼ総入れ替えになっている。3つの期間を通じて上位3に一度でも入った会場は24会場中8つしかなく、2回続けて入ったのは尼崎だけ、3回とも入り続けた会場は0だった。
全期間で一番成績が良かった下関も、期間を分けて見ると1位→7位→7位まで落ちる。2回だけ上位3に残った尼崎も、3期間目には18位まで下がっている。「良い会場」に見えたものは、次の期間には別の会場に入れ替わっているか、その会場自身が順位を落としている。
後半で扱う内容
- 24会場×3期間、回収率をすべて出した表(良い数字だけを切り出さず、悪い数字も含めて全部載せる)
- なぜ上位会場は期間ごとに入れ替わるのか(24会場から選ぶという行為そのものに数の問題がある)
- 144通りの組み合わせのうち、100%を超えたのはいくつあったか(数えた)
- 過去記事で出た「常滑97.2%」という数字との関係(混同しないための整理)
- 測り方の詳細(期間の割り方・母集団・既刊記事の数字とのわずかな差の理由)
潰した論点も、潰せていない論点も、そのまま書く。
24会場×3期間、回収率をすべて出す
隠さず全部載せる。3連単上位6点の回収率を、全期間・期間1(2/19〜4/24)・期間2(4/25〜6/28)・期間3(6/29〜9/1)の順に並べた。行は全期間の回収率が高い順である。

横に見ていくと、順位がまったく安定していないのが分かる。たとえば常滑は全期間では79.8%(24会場中11位)だが、期間ごとには76.2%→75.5%→87.4%と動き、良く見えるのはたまたま最後の期間だけである。宮島は期間1では72.8%(下から5番目)だったのに、期間2では94.0%で全会場中トップになっている。同じ会場が、切り取る期間しだいで「狙い目」にも「外れ」にも見える。
なぜ上位会場は期間ごとに入れ替わるのか
種明かしをすると、24個から一番良いものを選ぶという手順そのものに理由がある。
24会場にまったく実力差が無かったとしても、レース数が有限である以上、回収率にはサイコロを振ったときのようなばらつきが乗る。24個の数字を並べれば、必ずどれかが一番大きくなる。そのトップだけを見て「この会場は強い」と言うのは、24回コインを投げて一番表が出た回だけを取り上げて「このコインは表が出やすい」と言うのと同じ構造である。実力の差ではなく、選び方の数が生む錯覚が混ざっている。これを統計では多重比較(たくさんの候補の中から結果を見てから一番良いものを選ぶと、実際には差が無くても偶然差があるように見えてしまう問題)と呼ぶ。
会場ごとのレース数(1期間あたり300〜500件程度)も、この錯覚を後押しする。件数が少ないほど回収率の振れ幅は大きくなるので、たまたま良い数字が出る会場が毎回どこかに現れる。

24会場のうち16会場は、3期間を通じて一度も上位3に入らなかった。逆に言えば、上位3に入った8会場のうち7会場は、たった1回の登場である。「上位3に入った」という実績自体が、繰り返し起きる強さの証拠になっていない。
144通りのうち、100%を超えたのはいくつあったか
もう一つ、数え方そのもので確かめられることがある。24会場×3期間×2つの買い方(単勝本命1点・3連単上位6点)で、合計144通りの回収率が出ている。このうち回収率が100%を超えたセルがいくつあったかを数えた。
100%を超えたのは、次の3つだけだった。
- 期間1の若松、単勝本命1点で100.7%
- 期間3の常滑、単勝本命1点で102.7%
- 期間3の下関、単勝本命1点で103.8%
144通り中、100%を超えたのはこの3つだけ(2.1%)。しかも3つとも単勝で、3連単には1つも無い。 さらに、この3つはいずれもその会場の他の期間では100%を割っている(若松は期間2で89.1%、常滑は期間1で89.2%、下関は期間1で89.9%)。100%を超えた瞬間だけを切り取れば「この会場・この時期は勝てた」と書けてしまうが、同じ会場の別の期間まで並べれば、それが再現しない単発の超過だったことが分かる。
もし仮に「儲かる会場」を売りたい記事があるなら、この144通りのどれか1つを見出しに使えば、それらしい数字は作れてしまう。それができてしまうこと自体が、会場ランキングという切り口の危うさである。
過去記事で出た「常滑97.2%」という数字との関係
以前の記事では、「信頼度(モデルが本命の艇に付けた1着確率)60%以上に絞った常滑」で回収率97.2%という数字が一度出たが、3期間で測り直すと97.3%・92.0%・99.9%と7ポイントもばらつき、再現しないと判断して仮説を捨てた経緯を書いた。
今回の常滑の数字(全期間79.8%、期間ごとに76.2%/75.5%/87.4%)は、この97.2%とは直接比べられない。今回は信頼度で絞り込んでおらず、母集団も別物だからである。ただし、方法は違っても出てくる結論は同じだった。同じ会場でも、切り取る期間によって評価が大きく動く。 別の集計方法で測り直しても崩れなかったという点で、この結論の裏付けが1つ増えたことになる。
測り方の詳細数え方と対象の決め方。読まなくても本文の結論は変わりません
- モデル・分割方法は
src/article/track_record.pyの検証と同一(日付でソートしvalid_frac=0.2でtrain/validを分割、train期間だけで学習し直したモデルでvalid期間だけを評価する)。買い方の定義(単勝本命1点・3連単上位6点=Plackett-Luce(1着確率から2着・3着の確率を順に計算する数式)で作った上位6組)も既刊の本編・以前の記事と同じ。 - 会場は
raceテーブルのplace_cd(1〜24)。期間の3分割はレース数で等分した(暦月で区切ると会場ごとのレース数が不均一になりやすいため)。 - 本記事の全体の回収率(単勝本命1点90.5%・3連単上位6点78.7%、29,815レース)は、以前の記事に載せた78.4%・91〜92%(2026年8月30日時点の実測)とは一致しない。とくに単勝は91〜92%の下限を割って90.5%になっている。 理由は検証区間の取り方にある。検証期間は「日付順に並べた末尾20%」として自動的に決まるので、データベースが増えると始まりも終わりも動く。実際、以前の記事の時点では2026-02-15〜08-28だったものが、本記事では2026-02-19〜09-01になっている。つまり同じ期間を測り直したのではなく、少しずれた期間を測っている。本記事の会場別・期間別の内訳はすべて、この90.5%/78.7%(29,815レース・2026-02-19〜2026-09-01)を基準に測り直したもので、以前の記事の78.4%/91〜92%とは異なる母集団から出した数字である。
- 3連単の回収率が単勝よりばらつきの計算単位が小さい(1レースあたり6点=600円のうちどれか1点しか当たらない)ため、会場・期間で細かく割るほど分散は大きくなる。この記事の数字はすべて100円単位の機械的購入で、資金配分の工夫(ケリー基準など)は行っていない。
では何を見ればいいのか
会場ランキングという切り口そのものを否定するつもりはない。ただし、1つの期間だけで作ったランキングを信じないという一点だけは守った方がいい。もし「この会場は回収率が高い」という主張を見かけたら、次を確認するとよい。
- その数字は何レース、どの期間のものか。期間が1つしか書かれていなければ、多重比較の錯覚を疑う。
- 期間を2つ以上に割っても同じ会場が上位に残るか。今回の実測では、24会場中16会場は一度も上位3に入らず、3期間連続で残った会場は0だった。
- 100%という基準に対して、どれだけ余裕があるか。今回一番良く見えた下関でさえ、単勝本命1点で98.3%、3連単上位6点で86.0%だった。
この記事自体も、全体の回収率は単勝本命1点90.5%・3連単上位6点78.7%で、どちらも100%を割っている。 会場を選んでも、その前提は変わらない。良く見える数字が出たときほど、それが偶然による見え方でないかを、期間を割って確かめる価値がある。
免責
- 本記事に記載した数値はすべて過去データに対する実測であり、将来の的中や利益を保証するものではありません。
- 本記事および言及したツールは分析の補助を目的としており、舟券の購入を勧誘するものではありません。
- 舟券は20歳未満の方は購入できません。
- 舟券の購入は自己責任で、生活に必要な資金とは別の、余裕資金の範囲で行ってください。のめり込みには十分ご注意ください。
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